天龍寺は1994(平成6)年に、古都京都の文化財の1つとして世界遺産に認定、登録されました。世界遺産 天龍寺にある美しい庭「曹源池庭園(そうげんちていえん)」についてひも解いていきましょう。
天龍寺はいつ・誰によって創建されたのか?
「天龍寺」は醍醐天皇を供養するために室町初期(1339年)に臨済宗として創建されました。開基(資金提供)は室町幕府初代将軍・足利尊氏(あしかがだたうじ)で、開山(初代住職)は日本初の作庭家ともいわれる臨済宗の禅僧・夢窓疎石(むろうそせき)です。夢窓疎石は鎌倉時代から室町時代を代表する禅僧です。なお、夢窓疎石が堂舎を建て、曹源池を整備したことは確かなようですが、作庭まで行ったという確証はないという見方もあるようです。
私は夢窓疎石が作庭まで行ったとして話を進めたいと思います。
足利尊氏は夢窓疎石(1275-1351)の勧めで、南北朝時代のライバルでもあった後醍醐天皇を弔うため天龍寺を創建したようです。造営に際して足利尊氏や光厳上皇が荘園を寄進しましたが、なお造営費用には足りず、直義は夢窓と相談の上、元冦以来途絶えていた元との貿易を再開し、その利益を造営費用に充てることを計画しました。これが「天龍寺船」の始まりです。そして、造営費の捻出に成功した天龍寺は1345(康永4)年に落慶しました。
曹源池庭園はどんな庭園?
曹源池庭園は庭園を語る上で外せない名園であり、中央の曹源池を巡る池泉回遊式庭園で、大堰川を隔てた嵐山や庭園西に位置する亀山を取り込んだ借景式庭園です。そして庭の借景となる亀山は、後嵯峨天皇や亀山天皇が亡くなられたあとに火葬された聖地でもあります。
曹源池庭園の名前の由来とは?
曹源池の名称は夢窓疎石が池の泥をあげたとき、池中から「曹源一滴」と書かれた石碑が現れたところから名付けられたと言われています。
日本庭園最高峰の滝石組
曹源池庭園は、夢窓疎石作庭と伝わる中では最も規模も大きく優美・雄大な代表作です。曹源池の中心部に滝が組まれていて、その石組や自然石の石橋、池の中に浮かぶ岩島もこの庭園の見どころの一つです。日本庭園最高峰の滝石組は、戦前まで水が流れていたそうですが、現在は枯れてしまっています。
ほぼ造られた当時の姿
曹源池庭園は、石組が素晴らしい庭園ですが、曹源池を中心に石や植物を配置している現在の姿は、ほぼ造られた当時のままという貴重な(池泉回遊式)庭園です。
借景式庭園
夢窓疎石は作庭の際、庭園の外側にある嵐山の自然の美を内側に取り込ました。これは借景ととよばれる手法です。庭にある赤松やもみじは嵐山にもあり、連続性があります。連続した形、統一した形で、みせているところがこの庭の素晴らしい点の1つではないでしょうか。
美しさの秘密は斜面にもある
曹源池の向こうにある斜面こそ、この庭の美をひも解く一つです。曹源池庭園は、前景(池)、中景(斜面)、後景(嵐山)という構図です。池が広がる平地と、奥の斜面と2つの面が合わさってさってできており、斜面ならではの風景がとても立体的になって広がっているのです。
おかしな表現の仕方なのですが、曹源池庭園の風景は他の風景とは異なり、非常に立体感を感じる場所だと思います。おそらく、3段階(前景、中景、そして後景)の構図と、その構図の間隔のバランスが非常に良いのではないでしょうか。個人的な意見ですが…
曹源池庭園は断層があったからこそ美しい!?
曹源池庭園の斜面は、かなり急な斜面ですが、これは庭園のすぐ後ろに断層崖(だんそうがい)があり、この自然を地形をうまく利用して庭がつくられたのです。曹源池庭園は、断層によって造られた美だったのです!
天龍寺十境とは?
1346(貞和2)年に夢窓疎石が天龍寺境内の十ヵ所を名勝に定め、それを「天龍寺十境」と言います。現在の天龍寺は、かつての1/10程度に過ぎず、かつて天龍寺十境はずべて天龍寺境内にありました。
1.普明(ふみょう)閣(三門) – 壮麗な山門の雅称
2.絶唱渓(大堰川) -大堰川の清らかな渓水
3.霊庇(れいひ)廟(鎮守八幡宮/後醍醐天皇の廟) – 旧鎮守八幡宮
4.曹源池(そうげんち)(庭園) – 方丈裏の庭園
5.拈華(ねんか)嶺(嵐山)-桜の美しい嵐山
6.渡月橋(現在地より川上にあった) – 朱塗欄干の美しい橋
7.三級巖(音無瀬/戸無瀬 [となせ]の滝) – 川中にある三層の巨岩
8.萬松洞(ばんしょうどう、門前の松並木 – 門前通りの老松並木
9.龍門亭(音無瀬の滝を望む河畔の茶亭) – 嵐山を望む茶席
10.亀頂(きちょう)塔(亀山頂きの塔、九重塔) – 眺望絶景の亀山頂上の塔
天龍寺十境の共通点とは?
十境の地形の共通点とは、「境目」「へり」です。嵐山の美を考える上では、平地と斜面という「へり」がとても大事な要素となっています。平地と斜面が出会う場所である「縁(へり)」。「縁(へり)」が美しいのは、変化が始まる場所、違う風景と風景がぶつかり合いダイナミックになり、おもしろくなる場所だからではないでしょうか。
断層が美に繋がるというのは、私にとって新たな発見でした!
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